小林千晃さん(AFS46期生 1999年~2000年)
独立行政法人国際協力機構(JICA)・ AFS日本協会理事
日本及びブラジルで国際関係学を修め、独立行政法人国際協力機構において中南米地域の政府開発援助(ODA)に長年かかわっている。
対チリODAの仕事では、留学当時のホストファミリーが仕事相手。プライベートでは通訳案内士。

≪現在の活動について教えてください≫

大学卒業後、独立行政法人国際協力機構(JICA)に入社しました。
大学では文化人類学を専攻し、少数民族の文化や儀礼を研究していました。JICAに入社した理由は実はAFSで留学しようと思った理由と同じで、明日自分がどこにいるかわからないということに魅力を感じたからです。
JICAは世界全体に約90か国、国内10か所以上に拠点を持ち、全世界、全国、明日自分がどこに勤務しているのかわからない。色々なところから色々なものが学べるのではないかという好奇心優先型で職場を選びました。

≪高校生で留学したきっかけは何ですか≫

きっかけは日本の高校とは全く違う環境に身を置いてみたかったということ。その中でも高校時代でしか行くことができないであろうという好奇心から、日本から一番遠いところ、日本にいたのでは想像もつかなかった国、チリを選びました。
当時はインターネットの情報もそれほど普及していなかったのでチリというと、なんとなく中南米にある細長い国、という印象しかありませんでした。あと中南米は「明るい」というイメージがあって、日本の高校生とはまるきり違ったことをしているのではないかという想像が自分の好奇心をかきたてて留学してみようと思いました。

≪チリはスペイン語圏ですが言語に対する不安はありませんでしたか≫

高校生でしたし、そこまで英語力が高いというわけでもなかったので「言語を学ぶ」という視点よりも「新しい国、新しい文化に触れてみたい」という好奇心の方が強かったです。また、将来的な就職を考えることや言語力向上ということよりも純粋に未知なるものとの遭遇を楽しんでみたい、文化も言葉も違う学校生活を楽しんでみたい、という思いから中南米が一番面白そうのではないかと考えました。
当時はスペイン語も全くわかりませんでしたし、出発するまでほとんど勉強しませんでした。言葉は習うより慣れろ、というのが最速のラーニングの手段と思っており、当時も同じくホストファミリーや現地の友達とのコミュニケーションを通じて自然と言語力がついていったというのが留学の面白いところだと思います。

≪現地の友人は色々とサポートしてくれましたか≫

現地の友人は非常に友達思い、といいますか、おせっかいなのは多分中南米全域の特徴なのかなと思いますが、聞かなくても勝手に教えてくれるとか、テストでわからないところがあるとカンニングペーパーをさしだしてくれるとかですね、、、そういった人には言いにくいような思い出もたくさんあります。
あと週末になると、必ず誕生日パーティーがあったりですとか家族の○○記念日があったりですとか、当時中南米では日本人が非常に珍しく、いろんなパーティーに連れまわされました。
通常、高校生だと高校生としか対話の機会というのはないと思うのですが、中南米のパーティーでは大人や兄弟、また恋人同士で参加する(日本では当時あまりなかったと思うのですが、)ことが多く、そのような中で自分の年代とは違う人たち、またはカップルでいかに社交するということを間近で見られたことが非常に新鮮でした。
大人になったら当たり前のことなのですが、当時高校生だった自分にとっては、色々な方々と交流していくスキルを磨けたことは良かったなと思っています。

≪日本の高校生活とは全然違いましたか≫

違いました。家族との濃密さが日本では考えられないほどのものでした。
私の家族はホストブラザーを含めると6人家族で、住み込みのお手伝いさんを含めると7人の大家族でした。日本の家族は4人家族だったので、まず家族が倍になったというところが大きな衝撃でした。また、非常に社交的な家族で、毎週末家族の行事や友人を招いての会合があり、年代も違う様々な人との交流がありました。
いわゆる当時私が抱いていた”中南米の家族”の印象そのままの家族でした。人間関係が非常に濃密で幅広かったというところに日本との違いやギャップを感じ、またそれはポジティブなギャップだったので非常に学ぶところが多く面白かったです。

≪一番印象に残ったことやうれしかったことは何ですか。≫

今でも覚えていることは当時のホストスクールにアメリカとニュージーランドからAFSの留学生が3人きていました。当然留学生同士なのでとても仲良くなりました。また、アメリカ人の留学生はうちのホストファミリーと非常に仲が良かったので、一緒に色々なところに旅行に行きました。
今でも覚えているのが、チリに留学中のAFSの全留学生が集まる研修で、いろいろな国の留学生と一緒にインターナショナルコンペティションだとか言いながらポーカーの世界大会みたいな話に発展して夜中まで盛り上がったことです。国や言葉は違えど、好奇心旺盛でやんちゃな高校生同士、興味や関心事は共通ということを改めて体感しました。
ホストファミリーが自分を家族のように扱ってくれたことも強く印象に残っています。例えば、誕生日の時に色々なお祝いをしてくれたり、学校の節目節目にホストシスターやブラザーと同等の扱いをしてくれたり、日本でもやらないような盛大な誕生日パーティーや家族旅行、家族のイベントにくまなく呼んでいただけたというのが今でも思い出に残っています。

≪帰国後の進路について≫

私は高校1年から2年にかけて留学をしたのですが、留学している時に大学でもう少し勉強をしたい、という気持ちはありましたが、具体的な進路が明確にあったわけではありませんでした。ただ、ラテンアメリカに留学したので留学で得られた知見や人脈を活かしてそれをもっと高めていくような学問ができたらいいな、と思っていたので中南米関係の学業、研究を進めたいと考えていました。
また、中南米の豊かな文化の中でも特に少数民族のきらびやかな織物に非常に関心を持ち、なぜそのような織物を作る文化が生まれたのかという疑問がきっかけで、文化人類学という少数民族の文化、風俗、習慣の研究をする学問に進みました。

≪AFSでの留学経験が今の仕事や生活考え方にどのように影響していますか。
行く前と後だと考え方がかわりましたか≫

誰とでもコミュニケーションが取れるようになったということ。
言葉のスキルということではなく、色々な年代、性別、バックグラウンドを持つ方々と分け隔てなく対話ができるスキルを身に付けられるようになったということがAFSの留学の一番の効果だと思っています。日本人同士はもちろん、海外の外国の方々と同じく文化も理解しながら違和感なく話ができるようになったことはAFS留学の経験から得られた一番のものだと思っています。
今の仕事では、世界中の人たちとの仕事の交渉をしていく中で落としどころを探り合いながら相手と自分の求める着地点に議論を着地させていくという一つのコーディネーション能力が必要ですが、その能力を習得するきっかけになるコミュニケーション能力、相手国の違う文化や習慣を尊敬できる、理解できるといった素養はAFS留学を通じて築くことができたと思っています。

≪チリに留学していた際のホストファミリーや友人と今もかかわりがありますか≫

はい。2010年から2014年までブラジルに駐在していまして、ブラジルからチリは距離が近いということもあってその時は毎年1回くらいのペースでホストファミリーを訪問していました。2000年に帰国して2010年にブラジルへ駐在するまでの間も頻繁にEメールの交換をしたり、大学の卒業旅行でホストファミリーを訪問し、現地の友達と再会し思い出を深めていました。
また、当時のチリのファミリーですが、実は、今の仕事でも関係があります。当時のホストアント(叔母)が偶然、私のチリでの仕事におけるカウンターパート(仕事相手)になっています。チリの外務省に勤められていてチリの国際協力政策を担当しているのが私の叔母です。

当然友達との関係もずっと続いていましてフェイスブックやツイッターといったSNSを介して色々なやり取りをしたり、出張で年間4~5回くらいチリに訪問する機会があるので仕事の合間を見つけて一緒に昔の思い出話をしています。
留学からもう15年以上たっていますが、当時築いた友情というのは10年たっても20年経ってもずっと維持できていて、当時のバカ話が今でもできるのはとてもありがたいと思っています。

≪日本の中学生、高校生に対して一言お願いします≫

AFS留学から得られる経験うち語学習得は極一部でしかないということです。語学は本当に一つのツールでしかなく、語学力の良し悪しで良好なコミュニケーションや信頼関係構築ができるということではないということを今の仕事においても身をもって感じています。

AFS留学の経験というのは現地の家族との時間や友達との時間を共有しながら言葉も一緒に学んでいけるので、経験の深みというのが多分日本で生活しているのと格段に違うのかなと思います。
留学中、自分のことを最低限表現しないと生きていけないようなサバイバルな体験に追い込まれたことってAFS生の誰もが抱いている経験ですよね。つまり自分から伝えないと何もその手に入らない、自分からコミュニケーションを作っていかないと生きていくのに必要なものが得られない。この主張する力とか相手とコミュニケーションをとる力というのが今一般的に日本社会の中で不足しているというふうによく言われているのではないかなと思います。
こういったいわゆる人間社会の中で生きていく基礎となるコミュニケーション能力を培っていけるのがこのAFS留学の面白いところです。
それに加えて、語学力であったり、SNSやフォトジェニックな写真を友達と一緒に取れるなどの経験もできるので、ぜひ一歩足を踏み出して未知なる世界に飛び出して行っていただけたらなと思います。


この記事のカテゴリー: AFS体験 その後の進路・活動 チリ

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