AFS友の会ネットワーキング11月の集い

11月のAFS友の会ネットワーキングの集いでは、料理家の山田玲子さんが「食は一番身近な外交」と題して講演されました。
親しみやすい語り口で話が面白く、つい引き込まれて、最後には「よし、これからは私も楽しく料理を作るぞ!」という気持ちにさせていただきました。
以下、講演の概要をレポートします。

11歳児の異文化交流

発端は日本の子供達のコミュニケーション下手にまつわる山田さんの体験談。山田さんが大学生時代に、日本から11歳の男女4人を引率してフィンランドの田舎町で開催された1か月のサマーキャンプ“Children’s International Summer Village”(CISV)に参加。このキャンプは12か国から60人の11歳児が集まった。腕白でいたずら好きの4人だったが、ほかの国の子から怖がられ、敬遠され、友達ができない。いつも日本人だけ孤立してしまう。何故か。
日本の4人が、まるで失語症になったように、ほかの子に「声をかける」ことをしないのが主な原因だったようだ。特にThank you, Sorry, そしてHelloがタイミングよく言えず、すべて首の動きで済ませてしまっていた。「英語が出てこないのなら、日本語で言ってもいいのよ。ありがとう、ごめん、こんにちはって言ってごらん。」という山田さんの的確なアドバイスもなぜか実行に移されない。4人は次第に元気をなくしていった。
そんなとき、「各国の夕べ」という企画で日本の番が回ってきた。Japan Nightである。その日4人は浴衣を着、習字を見せ、折り紙を教え、「日本のごはん」としてちらし寿司を披露することにしていた。この日のために日本からお米、干しシイタケ、干ぴょう、田麩などを持ち込んでいた。60人~70人分のご飯を炊き、ヴィネガーと砂糖をいれて酢飯を作り、子供達4人も手伝って出来上がったちらしずしを1人分の器に分け、4人が食卓へ運んだ。しばらくして、4人は駆け戻ってきて「おいしいって言ってる。」「おかわりが欲しいって言ってる。」と口々に叫んだ。
大好評のちらし寿司夕食の後、男の子はあこがれていたアメリカ人の男子と肩を組んで歩いていた。また、女の子はオーストリア人の女子と、ゆかたとドレスを交換する相談を始めた。5人が一生懸命に作った日本のごはんがきっかけで、みんなと仲良くなることができた。山田さんは、食は一番身近な外交なんだ、食は素晴らしい、将来料理家になろう、と思った。その夢は13年後に実現する。

ホストファミリーのエピソード

CISVの活動に携わるようになって、山田さんの家で外国の11歳の生徒のホストファミリーを何度か引き受けた。山田さんのお母様は、ことばが通じない生徒をマクドナルドに連れて行き、生徒は大満足したようだ。家では、生徒が持ってきたグミを勧められて、お返しにおせんべいを食べるように勧め、コミュニケーションがスタートした。
食はコミュニケーション・ツールになる。

精神科の患者さんの料理教室

料理家としての活動の中で、特筆したいのは山梨県富士山ろくの精神病院での料理教室だ。うつ病など心の病に侵され、社会復帰を目指している患者さんにとって、料理は治療効果がある。
まず、「何を作ろうか」と考える。次に、買い物に行く。これは運動にもなる。レジで支払いをするときには、計算をする。こういった行動がリハビリに適しており、何より「食べる」ことは患者さんにとっても楽しいことなので、料理教室は好評だ。
気を付けなければならないのは「公平にする」ということ。生クリームの泡立ても、人参のみじん切りも全員にさわらせる必要がある。主婦を集めた料理教室とはそこが違う。

1人親家族の料理教室

父子家庭、母子家庭が増えている。子供連れで料理教室に来てもらう。
包丁でトントントンと音を立てて野菜を刻むと、子供たちが嬉しそうな顔をする。「普段はカット野菜だから音がないんです。」
お皿に盛りつけると子供たちは「きれいね。きれいね。」と目を輝かす。「お皿、いいですね。普段はパックのまま食べさせているもんですから。」
食は耳で気持ち良い音を聞き、目で見て美しいと感じ、舌で味わうなど、五感を総動員して楽しむもの。そこからコミュニケーションが自然に生まれる。

おにぎりの異文化交流

東日本大震災の被災地を応援しよう、ということで、東北地方の生産物を買ってもらう運動の一環として、ニューヨークでおにぎりを配ったところ、在留邦人だけでなくアメリカ人にも好評であった。そこで、おにぎりを海外に広めたいと思い、日英対訳の「おにぎりレシピ101」を執筆、出版したところ、海外の紀伊国屋でベストセラーとなった。
海外で「おにぎりコンテスト」をやると大人気、シンガポール、ハワイなどで「おにぎり屋さん」も登場し、イスラムのハラルのごはんとしてもよいとの評価もあり、世界におにぎりが広まりつつある。
特に海外にいる日本人にとっては、おにぎり、そして「おにぎりレシピ101」がコミュニケーションツールとして活用されている。

キッズ料理教室

就学前の幼児でも料理はできるし、大好きになる。
ある幼稚園で卒園前の年長児にお弁当箱を持ってこさせ、おにぎり弁当を作ってそれに入れ、持って帰って「3年間有難う。」と言ってお母さんに食べてもらう、という活動がある。おにぎりを小さい手で握り、山田さんが用意したトッピングを考えながら付け、出来上がったお弁当をいとおしそうに持って帰る子供達を見ていると、幼児にとっても料理が素晴らしい教育になることがわかる。

食育の問題点――5つの「コショク」

1.孤食:家族のスケジュールが合わず、1人で食事をする子供が増えている。
2.個食:好き嫌いもあり、家族一緒の食卓であっても個人個人が違うメニューの料理を食べるケースが増えている。
3.固食:固定したメニューの食事。2~3種類のメニューのどれかが毎回繰り返し出てくる家庭が増えている。
4.小食:あまりたくさん食べない小食の子供が増えている。
5.粉食:パスタや麺類など小麦粉を使った食品ばかり食べる子供が増えている。

定年ごはん

定年を迎えた男の妻にとって「僕の昼ごはんは?」という言葉が一番いやだ、という「昼ごはん問題」。家族が病気で倒れたとき男が困るのも「僕のごはん」。定年の準備はお金ではなく食が肝心。ということで料理ができるようになることをお勧めする。
最近共働き夫婦が増えて定年に限らずおじさん料理教室に通う人が増えている。

終わりに

料理は楽しい、自分のためにも家族のためにもなる、自慢のタネとしてもそれ以外でもコミュニケーションツールとして優れている。異文化の人々との接触が増加している中で、食を一番身近な外交として活用してほしい。

-立木 静夫(AFS11期 ’64-’65 USA)


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