「僕が東京に来る時は旅人としてで、ある時ホテルのバーで素晴らしいスイングのジャズが聞こえてきて・・・」と8年前の平岡遊一郎さんとの出会いを紹介される内に軽やかなギターとの掛け合いに発展して行きました。The Thrill Is Gone。
それに続く3曲目もジュリー・ロンドンの曲。Cry Me a River。「・・・3曲の中でこれが一番どろどろしている・・・」と平岡さんが言われた通り、ヴィオラの響きが伝えたのは、訴えても何も応えが返ってこない孤独の中の、地を這う様な声でした。
そしてこのあたりから曲風も変わってMoon River。そしてCharade。
「・・・プログラムにジャズ風とあるので、少しは崩してもいいかと・・・」「・・・又、少し前のCMコピーの様に“何も足さない、何もひかない”というのもいいなと思って・・・」という大山さんの語りに続いて、ギターの旋律に導かれ途中から低音のヴィオラに代わっていったDays of Wine and Roses と融通無碍なそのヴァリエーションを聴きながら、聴衆の方々の脳裏にもそれぞれの人生の中の一場面が浮かんできたのではないかと思いました。
後半にかけ、「ジャズ風からジャズへ・・・」との一言がありましたが、始まったのはボサノバの 「イパネマの娘」でした。この曲を聴くとペンシルバニアの高校で一緒に1年間過ごしたブラジルからのAFS 生、Alzira を思わずにはいられません。
“I’m from Brazil, where all the nuts come from.” のフレーズで笑いを取っていた親友。背が高くのんびり屋のラテン人と小柄で生真面目な私。このデコボココンビが現地の友人達を交えて結んだ絆を思うと、今の様な時代にこそAFS 体験が真価を発揮するのだと思わずにはいられません。
続いてCorcovado。丘の突端に立つ巨大なキリスト像が目に浮かぶ中で、ちょっとけだるい音を繊細に、繊細にギターが紡ぎ、作曲者アントニオ・カルロス・ジョビンもこれ以上の演奏は望めなかったのではと思われる程でした。
次の曲は、ブロードウエイミュージカル“Everybody’s Welcome“ の中から、As time Goes By”。おなじみの映画「カサブランカ」のテーマ曲です。
その後の I left My Heart in San Franciscoでは、ギターが奏でるメロディーをヴィオラがなぞるという導入部で、ひたすら美しく、やがて徐々に主旋律がヴィオラに引き継がれていきましたが、その様子は、まるでDuo による化学反応を見るようでした。
参加者51人、梅雨空の一夜、大山さんと平岡さんの温かくまた洒脱なお人柄が醸し出す心地よい雰囲気の中で、深い感興に浸る事が出来ました。
京都生まれ。英国ギルドホール音楽演劇学校卒業。LAフィルの首席ヴィオラ奏者、副指揮者、ラホイヤ室内楽音楽祭、サンタフェ室内音楽祭の芸術監督を歴任。日本では九州交響楽団常任指揮者、大阪交響楽団で音楽顧問・首席指揮者、ながさき音楽祭音楽監督を歴任。ラホイヤとサンタフェでは多くのジャズプログラムをプロデュースし、アンドレ・プレヴィンやレイ・ブラウンとも共同企画を演出。現在、一般社団法人 Music Dialogue芸術監督。CHANEL Pygmalion Days室内楽シリーズ芸術監督。米国ロベロ室内楽音楽祭芸術監督。