たった今、隠岐島前高校(以下、島前高校)に1年間留学していたマレーシア人のアフィーを見送った。離島に住まう者は別離に慣れている。慣れてはいるが、風に舞う紙テープを見て少しだけ視界が滲んだ。

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島前高校は、隠岐諸島島前地域(西ノ島町、海士町、知夫村)における唯一の高校である。都市部への人口流出や超少子高齢化など様々な課題を抱え、15歳人口も激減、半世紀以上続いた歴史ある学校も統廃合の危機を迎えていた。島前三町村は唯一の高校を守るべく、平成20年に「島前高校魅力化プロジェクト」を立ち上げた。「島留学」や課題解決型学習をはじめとする様々な取組が奏功し、離島中山間地域では異例の学級増を果たした。平成20年には89人だった全校生徒は、平成28年には180人となり、現在も学校・地域を挙げて『グローカル人財の育成』に取り組んでいる。

これまで地域柄どうしても「ローカル」に寄りがちだった高校での学びも、平成27年度に文部科学省のスーパーグローバルハイスクールの指定を受け、いよいよ「グローバル」な環境に足を踏み出すこととなった。そんなタイミングでAFSと出会い、マレーシアからの留学生を寮で受け入れる機会を得た。

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常松徹校長先生とアフィー

寮で受け入れることになった際、生徒同士が話し合いをしていた。「新しく寮に留学生が来ることになったんだって! 掲示物とか読めなくて困るから英語表記も必要じゃない?」と提案する生徒がいれば、「え、でもその子は日本語を勉強しに来るんだよね? だったら練習のためにも日本語のままの方がよくない?」と返す生徒がいる。果たして掲示物は日本語のままで、部屋の名簿だけ最初のうちはローマ字表記になった。

大人がグローバルな環境をつくれば生徒同士は学び合う。断食月があれば仲間で一緒に試しにやってみる。誤って豚肉が入っていそうな皿は仲間に味見をしてもらう。いま島前地域が抱えている課題は未来のマレーシアの課題でもあった。様々な場面で、様々な気づきを共にする姿を見ていると、微笑ましくもあり、頼もしくもあった。

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1月29日の夜。日曜日にも関わらず、大人は礼服に、生徒は制服に身を包んで体育館に集合した。アフィーのためのサプライズ卒業式である。
たった一人のための夜の卒業式。体育館に整然と並べられた椅子と本格的な毛筆で書かれた「卒業式」という横断幕を見て、アフィーの本当の功績を知った。

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アフィの卒業式はすべて生徒たちが企画演出、1月29日(日)の夜、隠岐島前高校体育館に全教職員と全校生徒が集合し盛大に挙行されました。本人には直前まで知らされていなかったようです。

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ローカルとグローバルの境界に線が引けないように、彼女を見送る時、私たちの間にあったはずの日本人と留学生という境界はなかった。これからも生徒たちが様々な境界をひょいと越えていけるような機会や場面をひとつでも多く創り出したい。彼女が再びこの島を訪れ再会できることを今から心待ちにしている。

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菱浦港で風に舞う紙テープの光景

島根県立隠岐島前高等学校魅力化コーディネーター 大野佳祐
(2016マレーシア春年間生LP)


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