AFS友の会新春の集い

「34年ぶりの留学生活で気づいたこと」


講師: 原田英治氏(英治出版株式会社代表取締役・AFS31期 ‘84~’85 USA)

2019年2月17日、「AFS友の会新春の集い」が開催されました。
講師にお迎えしたのはAFS31期生(’84~’85 カルフォルニア州)で長年AFSボランティアを続けられ、現在はAFS日本協会評議員を務める原田英治さんです。

原田さんは埼玉県出身。慶応義塾大学卒業後、外資コンサルティング会社を経て、英治出版を創業。一般の出版業とは一線を画した独自の事業展開を続けられ、昨年創業20周年を迎えられました。
この節目の年、4月より島根県隠岐郡海土町(隠岐諸島の一つ)に小学生の息子を伴って家族と生活の拠点を移し、いわば「親子島留学」を開始。

この20年間にどんなことが起こり、どんなことにつながってきたかを「新春の集い」に参加した仙名怜子さん(AFS2期 ‘55~’56 ミネソタ州)が次のようにレポートして下さいました。


1. 英治出版社が大切にしてきたこと

資本金300万円、埼玉県の自宅での出版社では小さすぎて、出版してくれる人もなく、自分たちをアピールするものを持ちたいと考え、「出版社の利益を優先させない」という理念に基づき、「絶版にしない出版社」、「未来にも読者がいる本づくり」を目指すこととした。基本的には読者ターゲットを狭め、絶版をせずに長期間売れ続ける本を作る。これまで19年間に350ぐらいのタイトルを出版してきたが、既刊本の94.7%が今でも売れ続けている。現在マーケットの読者だけをターゲットとせず、長く活動する著者を応援すると長く売れる。
本作りにあたっては、履歴書を送付すると不合格。エッセイを書いてもらい、会社の方向性に共感する仲間を集める。アラインメントを合わせることが、会社のクリエイティビティを発揮するうえで重要であり、会社の方向性が決まっているからこそ創造力や多様性が発揮される。同質になりすぎず、しかし共感度の高い仲間を得てきた。企画会議では、企画した人の内的動機を大切にし、最終的に全員の拍手で仕事を進める。

出版社として大切にしていることは、「誰かの夢を応援すると自分の夢が前進する」という考えで、6degrees of separation、「6次の隔たり」という考えに基づく。自分の友達は1degreeの関係。その人の友達は2degree。6degree になると全人類がつながる。つまり2,3degreesの階層を引き出せる人が人脈の広い人である。1人の友達との関係性を深めると組織の記憶が高まり、信頼できる仲間がいると実行力が強化される。全員が同じことを知るのではなく、だれが、何については強いという情報のあることが組織の記憶を強力にする。また2degree以上からの弱い繋がりでも、SNSなど様々なコミュニティから情報が入ってくる強さがあり、組織の記憶が高まる。自分の領域から一歩飛び出し、新しい領域に挑戦し、「相手が喜ぶことは何か」を考えることでクリエイティヒティは向上する。創造性を増すためには多様な刺激が必要で、毎年社員には海外出張を促す。自分の意識では顕在化されていないものが、仲間がいることで実現し、「仲間と作る現実は自分の理想を超える」ということが英治出版の一番大事なことである。

2・海士町の親子島留学で気づいたこと

境港からフェリーで3時間20分。島根県隠岐島にある人口2300の中之島海士町の親子島留学。この留学はとくに目的があって始めたわけではないが、教育魅力化は地域活性化のシンボル的存在になっている。海士町のスローガンは「ないものはない」だが、大切なものはあり、ないものは工夫しようという風土がある。魚類が豊富で食は充実している。島根・鳥取のAFS留学生たちも隠岐でキャンプをした。
島の人たちは、切磋琢磨はするが、相手を打ち負かし最後の勝者になることは好まない。島では、生き残こることが勝者だという価値観があるのではないか。また祭りの準備ではリーダーも役割分担もマニュアルもなく、過去の経験を参考に毎年試行錯誤を繰り返している。都会人は時間的効率とか経済的効率にとらわれるが、島では伝承とか経験的学びの優先順位が高いのではないか。

島の経済では、土産に焼売をもっていくとお礼に鯛が5匹になることがあり、必ずしも等価交換ではないし、同時精算もされない。島の経済はもっと長い目の損得勘定で回っている。挨拶や心遣いも取引対象であり、ものを貰った時はその場と、翌日、そして後日と3回は礼をいう。借りたものは返さず、所有者は必要なときに勝手に取りにいく。家も車も施錠しない。留守中にも注文品は配達され、冷凍品などは家人の在宅を確認して再配達される。狭い駐車場など他人の車が邪魔な際にはその車の所有者のキーで移動する。
日立京大ラボの未来シナリオ予測結果によれば、今後8年から10年ぐらいで都市集中に向かうか、地域分散に向かうかの分岐点が訪れる。いったん分岐が始まるとそれが交わることはない。島では菱浦地区だけが人口増加しているがあとは減少しており、地域内でも集中が進行している。分散の視点も意識すべきとき。
海士町の港には自動販売機がない。そのため最初のフェリー時間に合わせて売店を開ける。港での島の人たちとのコミュニケーションを大切にしている。海士町の地域活性化は、コミュニケーションによる関係性向上を基本としている。海士町の人たちも東京相手の商売を求めるが、実は東京も高齢者が増加、労働人口減少と、変化は始まっている。東京という地域の活性化はだれが進めるのか。人口減少の中で、都市、地域、どんな未来を描いていくのだろうか。


講演後の質疑応答の時間、引き続き行われた立食形式の懇親会でも様々な年代からの質問や撮影に気軽に応えてくださり、楽しく、打ち解けた雰囲気に満ちたAFSならではの「新春の集い」でした。


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